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事例 04

先祖代々受け継いできた「家」と「財産」を守るための生前対策

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先祖代々守り続けてきた家が、次の世代で継ぐ人がいなくなり、途絶えてしまう可能性を悩んでいたDさん。そんな不安を解決するために私たちが提案したのは…。(画像はイメージです)

 
神奈川県にお住まいのDさんは代々地主の一族です。
Dさん一族とのお付き合いは20年ほど前に遡ります。金融機関の営業マンから不動産管理に悩まれていたDさんのお母様(以降、「お母様」)を紹介されたことがきっかけでした。
ご紹介を受けて以降、お母様の所有する不動産の管理のお手伝いをしていましたが、お母様が亡くなられたのを機に、承継した財産について、Dさんご自身の相続対策の手伝いもさせていただくことになりました。
 
お母様がお持ちの財産のほとんどが底地でした。
底地というのは借地権のついた土地。建物を建てる目的で賃借人に貸している土地、いわゆる貸地のことです。土地の所有権は貸地人(地主)にあるものの、その土地を使用する権利は土地を借りている借地権者(借地人)が有しています。
 
■底地と借地権

底地と借地権

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・底地は地主が建物建築のために敷地として貸している土地
・借地権者は地主に地代を支払うが、地代は安いことが多い
・地代の割に底地の相続税評価額は高いことが多く、相続税の納税資金の工面に難儀するケースが多くみられる

 
借地人は地主に地代を支払いますが、その金額は月極駐車場の賃料と同じくらいというのがほとんどで、非常に安価というのが一般的です。
相続が発生すると当然、貸地も相続資産として評価されるのですが、地代は安くても相続税評価額は高く、貸地を多く保有している地主は相続税の納税資金の工面が困難になるケースが多いのです。
 
お母様は、地代収入が少なくても生活に問題のない資産状況だったこともあり、安価な地代でも全く気にしておられませんでした。
ただ、「このままの状態で相続になると、とんでもない金額の相続税が発生することになります。」と告げると、それまであまり乗り気でなかった相続対策について真剣に考えるようになりました。
 
相続対策として取り組んだのは借地の整理です。買い戻した借地にアパート2棟を建設、その後、障害者用施設の建物を建てていただきました。
それによりかなりの収入アップを実現することができ、かつ、相続税の軽減にもつなげることができました。
早時期の柔軟な対策が、功を奏したのです。
お母様の相続対策のお手伝いをさせていただいて結果を残したことから、Dさんからもご自身の相続対策について相談を受けることになりました。
 
Dさんからの相談内容は、ご自身はもちろん、代々の地主である「家」を守るための資産管理の方向性と、お母様の相続対策のときに手をつけていなかった他の土地の活用についてもアドバイスが欲しいというものでした。
 

問題点

一族の資産が承継されない可能性

Dさんは三人姉弟の長女で、妹と弟がいます。妹は独身、弟は結婚していますが子供はいません。
Dさんご自身には夫と、二人の娘がいます。娘二人は結婚しており、二人の女の孫がいます。
お母様が亡くなった際には、DさんとDさんの妹、弟で公平に財産を三等分にして相続が行われました。三人の姉弟の結び付きは強く、お母様の相続については全く問題がありませんでした。
ただ、次の世代の相続についてDさんは大きな不安を持っていました。というのも、前述のとおりDさんの妹は独身、 弟夫婦には子どもがいません。Dさんには子供や孫がいますが、全員女性のため、将来、結婚して家を出て行く可能性があります。
そうなると、自分の子どもや孫の世代で先祖代々地主として守り続けてきた「家」を継ぐ人がいなくなり途絶えてしまう可能性があります。
 
■Dさんの親族の相関図

Dさんの親族の相関図

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・Dさんの資産を将来引き継げるお子さん・お孫さんは女性しかいないため、代々続く土地を離れてしまう可能性がある

 
Dさんはこの状況をなんとか解決することができないだろうかとずっと考えておられました。
Dさんの代で13代目。歴史ある家系で、長く守り続けてきた一帯の土地。
Dさんは長女ということもあり、他の二人の妹弟よりも「家を守る」という責任を大きく感じてました。
 

解決策

資産の分散を防ぐ「法人」の設立

先祖代々守り続けた「家」が途絶えてしまう。そんな不安を解決するために私たちからDさんに提案したのが「法人の設立」でした。
法人の設立を提案したのには、いくつかの理由があります。
1つ目はDさんとDさんの妹弟の所得税を減らす効果です。
DさんとDさんの妹弟それぞれの配偶者や子どもを法人の役員にし、Dさん姉弟が所有していた駐車場や店舗などの不動産を法人が借り上げて、できるだけ所得を法人に集中させます。
そして、法人が得る所得は「役員報酬」としてそれぞれ個人に支払うような仕組みを提案しました。
これにより、Dさん姉弟の所得を分散させることができ、所得税の軽減が可能となります。
 
2つ目は、Dさんがずっと心配していた資産の分散を防ぐ効果です。
Dさん姉弟が三人で引き継いだ資産は、将来、Dさんの子供や孫たちが承継していくことになります。しかし、Dさんの子供や孫は家を出て行く可能性が高く、これまで守り続けてきたD家の資産が方々に分散することになってしまうかもしれません。
法人を設立して、Dさん姉弟に相続が発生しても土地や建物を法人が運用していくことで 「家」として資産を守り続けることができます。また、法人の名に家名を付けることで「家」という先祖代々からのつながりを残すこともできます。
 
そして、法人化した3つ目の理由は消費税の還付を受けるためです。
Dさんから依頼を受けた「相続対策」。その一つとして、低収益の低い借地権の買い取りを行い、その土地に事業用賃貸物件を建てるという計画を立てました。
実は、いくつか細かな条件はあるものの、消費税の課税事業者が、店舗や事務所など事業用の建物を建築したり、購入したりするときには、消費税の還付を受けることができます。
 
Dさん一族で作る法人が、Dさんや妹弟個人が所有している貸駐車場や貸店舗を借り上げると、この事業用賃貸物件の賃料は法人の収入になります。
住宅には消費税はかかりませんが、駐車場や店舗の賃料には消費税がかかるため、立ち上げた法人は消費税の課税事業者となり、事業用建物を建てる際の建設費にかかる消費税の還付を受けることができるのです。Dさん一族の法人もしっかり消費税の還付を受けることができました。
 
不動産オーナーや地主が、税理士に「法人化」について相談すると、個人事業主と法人化するのでは、どちらがどれだけ税金が安くなるかという税金面からアドバイスをしてくれるはずです。
もちろん、税理士は税金のプロフェッショナルですから、そういったアドバイスをするのは当然だと言えます。
 
法人化は節税につながる対策の一つではありますが、今回は「家」の名前を将来にわたって承継していきたいという観点で法人化が特に有効な方法だったのだと思っています。
もちろん一様に法人化するのがいいというわけではありません。メリットとデメリットの両面がありますので、単純に節税対策の面だけを見て判断するのではなく、総合的な視点で考えていくことが大事だということを理解していただければと思います。
 
現在、Dさん姉弟は、設立した法人を順調に運営されています。また、今回の相続対策を通して、Dさん姉弟の貸地に対する認識も変わりました。
売却が難しい割に利回りは低く、相続税評価は高い。そんな貸地の本質を理解したDさん姉弟は、保有している貸地を少しずつ整理していく方向で相続対策を続けています。
保有する土地の面積にはこだわらず、収益を生み出すことのできる資産に組み替える作業を行っています。
土地の購入を希望している借地人には土地を譲り、生家周辺や高度利用のできる貸地に関しては積極的に買い戻しを実行しているところです。
 

まとめ

不動産の相続は、「想い」の承継でもあります。節税対策だけにとらわれず法人化などを活用することで、資産を大切に守りながら、金銭的な問題もカバーすることができます。